歯周病などは以前から全身疾患などとの関係が言われてきています。糖尿病や脳血管疾患、早産など多岐にわたります。
その他にも口腔環境の悪化は高齢に伴い誤嚥性肺炎、心臓の手術既往などがあれば感染性心内膜炎なども関係してきます。
口腔環境と全身疾患との関係を知らなかったといわれる方も日々の診療でも多くみられます。
今回は全身疾患との関係を確認してもらい、皆さんの健康維持に役立てていただければと思います。
口と全身疾患との関係
歯科医院で治療というと、虫歯や歯周病の治療、顎関節や歯の矯正などお口周囲の治療がいくつか想像されると思います。
口は食物を適切に咬み砕いて、食塊を作り食道、胃へと送り込む重要な器官です。
それには、歯や歯を支える歯周組織が健康でなくてはいけません。
虫歯や歯周病治療は単にそれぞれの治療のようですが、実は全身に関係する治療の一部を担うわけです。
お口の常在細菌
一般的には歯科医院で行うことは虫歯と歯周病の治療が多いと思います。
虫歯や歯周病はどちらも細菌に由来する疾患です。これらは常在細菌でなくすことはできません。
普段皆さんは歯磨きなどにより病原となる細菌数を減らして、虫歯や歯周病にならない様にしていると思います。
これらの細菌は数が少なければ問題となりにくいですが、集まると歯ぐきに炎症を起こします。
それが局所的ではなく全身にも影響を及ぼす事があります。
お口周囲の環境と高齢者
高齢者の場合には食べる動作や飲み込む動作がやや難しくなってきます。
食べる動作がうまくいかなければ、丸呑みのようになってしまい胃や腸への負担が増えてしまいます。うまく消化ができないことも出てくるでしょう。
飲み込みに関しては通常は喉に入った食べ物が飲み込む動作により、気管に行かず食道の方に流れます。
しかし、高齢になると飲み込む動作がうまく行かなくなる事があります。
気管の方に食物が入り込み誤嚥してしまいます。重篤になると肺炎も惹起することもあります。
このように口の環境は若年者から高齢者まで非常に重要です。
歯周病と全身疾患
お口の中と全身の健康を考える上で、歯周病と全身疾患との関わりは重要です。
歯周病は糖尿病、低体重出産や早産、心筋梗塞、脳梗塞との関連が示唆されています。
歯周病は口の中の問題ですが、どの様にして全身疾患と関連するのかを確認していきましょう。
歯周病と糖尿病
歯周病と関連する代表的な疾患に糖尿病が挙げられます。
糖尿病はインスリンが絶対的・相対的に不足・欠乏します。血糖値が高い状態になるため、全身の血管に障害が起き様々な合併症を引き起こします。
歯周病は細菌に由来する疾患ですが、歯周病菌は体にとって害となる物質をいくつか持ちます。
その一つが内毒素と呼ばれるものです。
この内毒素は口の中から血液に乗って全身を巡り、インスリンの働きを間接的に阻害します。
これにより歯周病にかかっている方は、糖尿病の症状が悪化しやすいと言われています。
逆に歯周病を改善させると糖尿病の症状が改善することもわかっています。
歯周病と低体重児出産や早産
妊娠している方が歯周病に罹患すると低体重児出産や早産のリスクが上がることが示唆されています。
妊娠中の方は、タバコやアルコールなどに気をつけることが多いかもしれません。
しかし、これらより歯周病の方が低体重児出産や早産のリスクが高いと言われています。
歯周病細菌が出す毒素や細菌自体が胎盤を通過する可能性もあるようです。
妊娠中の方は、ホルモンバランスの乱れから歯肉炎になりやすいと言われています。
ご自身のためにもお子さんのためにも妊娠中は特にお口の中に気をつけたいものです。
高齢になると関係する口と全身
高齢になると徐々にお口周囲の機能が低下していきます。
食べる・飲み込む動作が徐々に緩慢となり、徐々にスムーズに行かないことも出てくるでしょう。
その様な状態になったときに関係するのが誤嚥性肺炎です。
その他にも心臓の手術などを行った後や、先天性に心臓の弁に障害がある方などに注意が必要な感染性心内膜炎もお口の環境が重要になります。
口腔環境と誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎は通常食道から胃へと食物が送られる過程で、誤って気管や肺に食物などが通ってしまうために起こるものです。
健常な方は飲み込む力があり、間違って気管の方に食物などが迷入してもむせる事によって回避しています。
しかし、高齢になるとその様なせきやむせの反射が弱くなり、肺炎を起こす事があります。
食物を食べていない時でも、寝ている時に自分の唾などを誤嚥してしまうこともあります。
この様な方の場合にはお口の中の環境を整えておかないと、容易に誤嚥をした後の肺炎を惹起しやすくなります。
在宅医療で通院できない方や老人ホームなどに入所されている場合には、お口のケアなどのフォローが重要になります。
口腔環境と感染性心内膜炎
感染性心内膜炎は心臓の弁に障害がある方や人工弁の置換術などの手術の既往がある方の場合に注意が必要です。
その様な場合には弁の周囲の血流が滞りやすく抜歯などの外科治療に代表される観血的治療において、細菌が弁の周囲に付着してしまう事があります。
これにより感染性心内膜炎を引き起こす事があります。
感染性心内膜炎は発症頻度は多くないものの、適切に対処しないと後々の合併症により死に至ることもある疾患です。
口の中の細菌が心臓の弁に付着して増殖する可能性があることを考えると、口腔環境管理や歯周病治療が大切であると言えます。
実際にある論文では歯周病にかかっている方は感染性心内膜炎のリスクが高いことを示唆しているものもあります。
まとめ
お口の環境と全身の健康との関係を疾患別で確認してきました。
お口の中の細菌は血管を通り、血流に乗って全身を巡る事があります。
細菌は目に見えないほど小さなものですが、重篤になると体を蝕むような大きな病気と関連する事もあります。
日頃からお口の健康管理に努める様にしましょう。
特に定期的な歯科検診は重要です。
症状が出てから受診をするのではなく、予防に努めてお口から全身の健康管理をしましょう。